元王女の王国滅亡物語り

人物伝1 王国最後の騎士団長、レイ 少女は騎士を目指した


 おはようございます、こんにちは、こんばんは。
 突然ですが、わたしが一番尊敬している人間は、王国崩壊時に騎士団長だったレイ様です。
 わたしの趣味もありますが、彼女の人生を追体験することで王国崩壊までの流れがよりよく理解できると思い、ここに、彼女の経歴を紹介します。
 なお、この経歴は彼女自身に聞き取り調査したもの、当時の部下の証言、亡くなった人々の残した日記などを参考に、わたしが独自にまとめたものです。
 わずらわしいので伝聞調ではなく、言い切りの形にしますが、あまり鵜呑みにしないようにご注意ください。

 では、簡易年表形式で見ていきましょう。


 レイ・アスタス
 女性3人目の王国騎士団長
 現カロル兵団将軍


 1249年 1歳(数え年)
 ロド大陸西部南方の砦、タピネにて、王国騎士の両親のもとへ生まれる。
 (タピネにまつわるあれこれもそのうち取り上げたいですね)


 1259年 11歳
 タピネ陥落をきっかけにカベト市へ移住。その際、街道で魔物に襲われる。別の魔物に気を取られていた母を守るため、混乱の中で誰かの落とした剣を手に取り、はじめて低級魔物を殺す。
 それからその剣をひとときも手離さず、父と母に頼み込み、剣術と魔法の稽古に励んだ。


 1260年 12歳
 王国の訓練学校、騎士課程へ志願。
 入学試験も兼ねた木刀による模擬訓練で、在校生三名に対して無傷で一太刀ずつ浴びせ、入学を認められる。


 1261年 13歳
 異例の早さで騎士課程を修了。王国騎士団に配属される。
 しばらくは補給の仕事を任される。
 補給路が襲われた際、荷駄隊を守り切った功により、三等騎士長に昇進する。
 (レイ様は補給路を守る部下をとても大事にするそうです。それはこのころの経験が役立っているのかもしれませんね)


 1262〜65年 14歳〜16歳
 魔物の攻撃が弱まったため、しばらくは目立った活躍もなかった。
 気のゆるみがちな兵士たちの間でも、毎日の厳しい訓練は欠かさなかった。


 1266年 17歳
 王国軍が、魔物の攻撃が弱まったのを好機と見て、タピネ奪還作戦を立案。
 レイは騎士団所属だが、志願する。
 (簡単に言うと、王国軍は兼業兵士、騎士団は専業兵士で、まったく別の組織です)
 あまりの熱意で王国軍の指揮官を根負けさせ、特例として参加を認められる。

 しかし、タピネ奪還作戦は上級魔物多数の出現により、惨敗に終わる。
 総崩れになった味方の退却を援護するため、最後まで戦場にとどまる。
 全身に数十か所の傷を負いながら、足をけがした同僚・フォードを抱えてカベト市に無事帰還した際、兵士たちの間で拍手喝采が起きる。小さな体の女兵士。その獅子奮迅の活躍ぶりがフォードによって伝えられると、惨敗の中の唯一の希望として喜ばれた。
 その功で、二等騎士を飛び越え、一等騎士に昇進。
 (ロシュタバ以降の王国の騎士階級は、団長、副団長、団長補佐、一等騎士長、一等騎士・奴隷剣士長、二等騎士長、二等騎士、三等騎士長、三等騎士、奴隷剣士となっています)


 1267年〜73年 18歳〜24歳
 各地を転戦して、王国の所領維持に貢献。


 1274年 25歳
 一等騎士長に昇進したレイは、部隊を率いて大型魔物討伐作戦を指揮するさなか、身体に異変を感じる。
 上官に相談したところ、魔法剣発現の兆候ではないかと指摘される。
 剣の柄のかたちをした魔石の塊を渡されると、試行錯誤の末、魔法剣の扱いを体得した。
 (魔法剣は魔力を目に見える形にしてあやつる反則技です。発現条件は不明。わたしは幸運にも一度、発現の瞬間に立ち会うことができましたが、本人の意志とは関係なく魔力の光があふれ出ていました)


 1275年 26歳
 タピネの戦いでレイが戦場から抱えて帰ったフォードも、魔法剣を発現。


 1276年 27歳
 フォードと同時に、団長補佐へ昇進。
 王都北部城塞への攻撃が激しさを増していたため、王都北部城塞の守備隊長として詰めることに。
 副隊長としてフォードがつけられる。


 1278年 29歳
 王都北部城塞を襲う大型魔物を次々に討伐。フォードとともに、副団長に昇進。
 王都北部城塞への攻撃弱化を受けて、三年ぶりに王都へ帰還。熱狂的に迎えられる。
 帰還後は王都守備にあてられ、変わらずの武勇を発揮する。
 王都北部城塞において常にかたわらにあったフォードは、王都北辺領へ派遣される。


 1282年 33歳
 先代騎士団長のラッツが高齢と肺病を理由に、今年限りでの退団の意向を示す。
 先代騎士団長ラッツから、次期団長に指名される。
 王族3人、神学長・騎士団長1人ずつからなる「五長会議」も承認の意向を示す。

 しかし王都北辺領でレイ以上の武勲をあげ続けていたフォードが、決定を不服として対立。
 レイには従えないとして、腹心の部下数十名を連れて騎士団を抜け、行方をくらませる。
 王国では謀反の疑いありとして賞金を懸けたが、足取りはつかめなかった。
 フォードへ全幅の信頼をおいていたレイは衝撃を受け、ひと月ほど執務室にこもりきりで戦場に立たなかった。
 (ちなみにフォードとはこの十三年後、『王国崩壊』の際に再会することになります)


 1283年 34歳
 フォードから受けた精神的打撃も薄れたころ、王国領西端、カベト市駐留の守備隊から「魔王」(外界魔族)の目撃証言が急報される。
 以前、「魔王」が出現したのは1238年で、50年も経ずに出現したのは王国史上初めてのことだった。
 レイはすぐさま異変を報告し、みずから討伐に赴くことを「五長会議」に提案。
 しかしフォードの抜けた穴はあまりにも大きく、レイが長く王都を離れることは認められなかった。

 五長会議の一角、王国軍将軍にして国王の弟ミラー・ロドが、国王軍中心の討伐隊編成を提案する。
 専業兵士の騎士団とは違い、ふだんは他の仕事に従事する者も多い半民半軍の王国軍には荷が重い。歴戦の将軍ミラーに対しても恐れることなくレイは意見するが、結局ミラーの案が優先され、騎士団は王国軍の支援に回ることとなった。

 部隊の名称は魔王討伐隊と決まる。
 ミラーから騎士団員をふたり推薦するよう要請されたレイは、熟考のすえ、部隊を統率することにかけては自らをもしのぐクローセ・アクイラと、多数相手の魔法戦術を得意とするバルドー・サチェスを推薦。

 会議の際、魔王討伐隊の第一陣は少数による潜入偵察の性質をおびるもので、第二陣以降に本腰を入れる、というニュアンスをミラーはこめたつもりだったが、レイには伝わっていなかった。
 ミラーはレイが推薦してきたふたりの優秀さに驚き、慌てて選出人員を変更。出自が劣り死んでも問題にはならないことは変わりはないが、実力はもっとも確かな三人が選び直される。
 レイは、ミラーと自分の思惑がずれていたことに気づき、多数の兵士を統率する能力を見込んで選んだクローセを外そうとしたが、部隊派遣の命令はすでに国王によって下されていた。国王の命令が変更されるためにはよほどの事情がないと不可能であり、ふたりのあいだの思惑のずれは、よほどの事情とはならなかった。

 魔王討伐隊は結局、魔法剣を扱うことのできるカロルを隊長とする、たった5人の偵察部隊として結成されてしまった。
 後続部隊のための捨て駒であるとの自意識が5人の間には生まれ、実際にその通りだった。


 1284年 35歳
 魔王討伐隊の5人はいまだ生き残っていた。
 レイが騎士団を挙げての全面的な協力をしていたからだった。
 魔王討伐隊の隊長は、王国軍の一般兵カロルであり、プライドを傷つけられた騎士団員の間から不満が噴出する。実際に、騎士団出身の副隊長クローセも、事態に気づいたレイがきつくしかるまで、隊長のカロルをないがしろにしていた。
 しかし隊長のカロルと、防御魔法の使い手ログナ、異次元の風魔法を操る奴隷剣士のリル、王国軍から選ばれたこの3人は、クローセとバルドー以上の、高い戦闘能力の持ち主だった。
 初めは、団長のレイが無理やり押さえつけていた不満が、しだいに、自然な形で薄まっていく。戦うたびに5人の結束も固まり、騎士団の支援も受けながら次々に「魔王」の配下を打ち破る。
 彼らは正真正銘、救国の英雄への道を歩き始めていた。
 (レイ様のおかげで!)

 この年の12月、パキス村に立ち寄ったおり、レイはある少女と出会う。
 彼女はレイの滞在する宿のすぐ近くの家に住む、10歳の少女だった。遊び半分に炎魔法で暖炉に火をつけようとしたおり、魔法を暴発させて自宅を焼失させてしまったのだ。
 魔力を暴走させてしまうと、いちばん魔力の集中する腕が、吹き飛ぶ、あるいは深刻な障害が残るという悲惨な事故が起こる。
 しかしその少女は、普通の人間なら魔力の暴発といってもいい大事故を引き起こしたにもかかわらず、無傷だった。
 レイは少女と少女の両親の合意をとりつけ、様々な検査を行い、彼女が生まれながらに莫大な魔力量を持っていることがわかった。

 魔法剣を使うためには膨大な魔力を消費する。そのため発動の回数制限がつきものだが、彼女がそばで魔力を送りながらカロルがそれをコントロールすれば、何度も魔法剣が使えることになる。
 すぐさま魔王討伐隊の5人に知らせたレイは、5人とともに少女と少女の両親を説得する。
 レイは騎士団の金庫から持ち出させた金で、焼失した住宅の再建の資金と、一族郎党への謝礼金を用意した。
 5人が少女本人を、レイが少女の両親たちを説得して、魔王討伐隊は6人になった。
 (少女の名前はミスティといいます。現カロル兵団団長です)


 1285年 36歳
 レイは王都と前線の往復で多忙な毎日だったはずだが、6人の成長を見守るのがことのほか楽しく、充実した日々だったと述懐する。6人がいればこれからさき数十年、王国の未来は明るい、そう確信していたとも。
 しかし、魔王討伐隊とともに、王都付近へ出現した「魔王」の右腕、一つ目の巨大魔物と戦闘中に、最初の凶事が起こる。
 レイが、市民を守って瀕死の重傷を負ってしまったのだ。
 そこから不幸の連鎖は始まる。

 レイは、王国民から絶大な人気と信頼を得、騎士団の絶対的支柱として君臨していた。
 代わりの副団長では支援を徹しきれず、王国各地の被害が増大。
 魔王討伐隊は王国による支援が整いきらない中、前倒しで魔王の討伐に挑むことになってしまう。
 (歴史を見ていると、一度悪い方向に回りだした流れは、誰がどうあがいても止められないのではないかと思ってしまうことがあります)

 カロル、ログナ、リル、クローセ、バルドー、ミスティの6人は、そんな悪条件の中でも奮戦、見事、「魔王」討伐を達成する。
 あとは騎士団員が確保している退却路を行くだけ、そのはずだったが、なぜか退却路も、多数の上級魔物で魔物でふさがれている。
 「魔王」というたがが外れたことによって暴走を始めた上級魔物が、副団長率いる騎士団を壊滅させた結果だった。
 隊長のカロルは、5人を死地から救うため、限界まで魔力を使い切ったのち自爆する。

 「魔王」を倒せば瓦解するかと思われた魔物たちは、予想に反して各地で暴走を始める。
 「魔王を倒せば平和が戻る」を合言葉に過大な重税をしいていた国王らは、王政崩壊の危機を察知し、すぐさま魔王討伐隊の6人に全責任を押し付けることに決めた。
 レイが参加しない五長会議において、王族の賛成3、神学長の棄権1により、6人それぞれの首に1億ロドの懸賞金がかけられることになった。

 「魔王」の根拠地に最も近かったカベト市、グテル市はそれぞれ暴走した魔物の直撃を受けた。
 すでに民間人の退去が済み、駐留軍しかいなかったカベト市は被害が少なかったが、魔王討伐の前線基地として機能していたグテル市の被害は甚大だった。
 王都に近い地域の対応で手いっぱいだった王国は軍を派遣せず、グテル市を見捨てる。
 王国に見捨てられたグテル市で起きた『グテル大虐殺』は歴史の闇に葬られ、王国滅亡と魔物討滅を掲げるカロル兵団誕生のきっかけをつくる。

 ベッドの上で数々の報告を聞いたレイは、報告する部下の前で、静かに涙を流し続けたという。