50

 六歳以前、現在ストレイジと呼ばれたものたちは、確かにこの研究施設で過ごしていた。
 加奈たちが出られたのは、障害を持ち失敗作と蔑まれながらも身体的な意味では抜群の能力を誇る、人間兵士だったから。一郎の場合は朝鮮軍の元幹部を通して養子に貰わていき、事なきを得た。大抵の者は母親の胎内にいる時から薬物投与によって操作され、途中から連れてこられた者――主に脱北者――にも様々な実験を施した。欧米から見れば弱い、黄色人種という肉体を克服しようともがく、馬鹿な計画だった。昔、ヒトラーが行った計画と差異があるとすれば、戦時中の開発ではなく時間も予算も十二分に取ることができ、成功裏に終わったというところだ。膨大な、人外のものを生み出して。
「目は自分で喰ったんだろう。鼻は実験の影響かもしれない」
 冷静に言葉を繋ぐ彼女は先頭を歩きながら説明した。左右に配された牢はいつの間にか消え、景色は研究室然とした無機質な壁面に変わっていた。この階では本当に敵の襲撃はないのかもしれない。長大ではあるが一本道のこの通路で、チョルミンがストレイジ三人を相手に軽装部隊を配置するはずがない、と言っていた加奈は、聞けば説明はするが、纏う空気は油断できない。注意していなければならないなと考え、銃を握り直した。

 ひたすら歩いて、加奈の背中越しにようやく見えた扉は、一瞬のうちに彼女によって蹴り開かれ、室内の安全が確認された。こんな彼女が敵わないと漏らしたチョルミンという男は、一体どれ程の強さなのだろう。
 室内が放置されてからの時間の経過は、あまり感じられない。急遽、移動したらしい。慌しく駆け回った後が、机の上に散らばる資料からも窺える。どうしてここを動かなければならなかったのか。考えていると、隣でがたがたやっていた安藤が、
「一郎。資料を出来るだけ持って帰る。手伝え」
 と言った。
「どの資料?」
「このデスクに置いてある奴と……そっちの青いファイル。それだけでいい。あとは大したこと書いてねえ」
「分かった」
 背嚢を下ろして、手際よくファイルを詰め込んでいった。地下一階で未だ会戦していないとはいえ、広大な施設内部に翻弄され結構な時間が経っていた。のんびりはしていられない。加奈と千絵が地下二階に続く昇降機を探しているから、見つかり次第進むことになる。
 全てを詰め込み終え、一郎は室内を歩き回る千絵の背中を見つめた。この邪魔な資料たちが、ストレイジの発作を抑制する鍵になるのかは分からない。ただ、あの背中を見ていられる可能性があるなら、期待してみたい。この背嚢は、その一歩だ。様々なものを喪い続けた自分が、微かに掴むことの出来た希望。
「これだけの資料が残されてるんだ……チョルミンって奴は、先に進ませるつもりはないだろうな。仕掛けてくるとしたら、次だ」
 背嚢を大切に背負い直した一郎は、安藤の言葉を聞いて頷いた。

 地下二階への昇降機が、静かに下り始めた。地下二階へ着いたら、また反対側の昇降機を目指さなければならない。
 グロックを手に持つ一郎は、再度装填弾のチェックをした。異常はない。緊張から溜息が零れる。本当に四十人も集まっているのだろうか。まだ八人しか殺していないこちらは、どうすれば……。考えれば考えるほど、手が震えた。自分は、生き残れるのか。昇降機の操作盤上に設置された簡易ライトがグロックを照らした。グロックに映った自分の瞳に、狂気が宿っていたような気がして、あわてて目を逸らす。弱気になるな。狂気に弱みを見せるな。心の中でそう繰り返した。
 隊列を話し合い全員に説明している武田と加奈以外には、誰も言葉を言葉を発しないうち、昇降機は地下二階に着いた。
 そして一郎が二度目の溜息を零すと、何も持っていない左手に、手が触れ、そのまま握られた。びくりと体を震わせて見れば、千絵が視線を合わせてきた。
「大丈夫。一郎は強いよ。」
 囁くように言った千絵は、軽く笑みを零してからするりと手を外し、正面を見た。


 昇降機と地下二階とを隔てる鉄製の扉を押し出し、一息に飛び出した加奈と前川が、昇降機の扉が開くタイミングを狙っていた兵士数名を、武田小隊に配備されていた短機関銃で仕留めた。倒れこむ死体を睨みつけている加奈の予測は、またしても当たったことになる。彼らを仕留めた後は敵が途絶えた様子で、二人は昇降機に留まる七名を呼び出した。
 一郎と千絵は昇降機での話し合い通り、先頭になった加奈と孝徳の後ろに、間隔を空けてついた。唯一の民間人の夏樹は、縦に並んだ一郎と孝徳の丁度真ん中辺りを歩いている。廊下の横幅は、三人並んで手一杯だった地下一階とは違ってそれなりにあり、余裕がある。一郎の左斜め後ろを歩く千絵の背後にはこれもまた間隔を空け武田と宮沢が警戒。武田は左目が見えないため、右側に陣取っている。注意をしなければならないのは左右に配された扉で、いつ敵が現れるか分からず、後尾にも先頭と同程度の危険が付随する。後尾は安藤と前川が固めることになった。
 
 両手で銃を握り、いつでも狙いを定められるように神経を尖らせる。微かな物音にも反応してしまうこちらとは違い、千絵は手馴れた様子で警戒をしていた。警備会社と朝鮮軍では鍛え方が違う。それでも前線を経験して、少しくらいは役立てるようにはなっているはずだ……と考えたところで、突然天井のスプリンクラーが作動した。続いて警報が辺りに響き渡り、身を固まらせた刹那、先頭を歩く加奈の目の前で防火シャッターが凄まじい音を立てて落ちた。それを見た千絵が前を歩いていた夏樹のことを瞬時に蹴り飛ばし、直後、夏樹のいた場所に防火シャッターが落ちた。振り返ると、後ろにも防火シャッター。分断されたと思うより先に、両脇の扉が開いた。



          *



 左側の扉が開くと同時に銃を構えた兵士の射線を避け、体をぶつけた。千絵の右手にはナイフが構えられていたため、兵士は呻き声をあげて、倒れこみそうになった。それを支えて、ナイフを引き抜き首筋に当てる。部屋内には今千絵が確保した兵士のほかにもう一人。動くな、と朝鮮語で言った千絵の体が丁度男に隠れるため、彼は手出しできない。少しの間膠着状態が続いたが、銃声の後に扉が閉まる音をが聞こえた。一郎だと予測し瞬時に屈むと、目の前の兵士が血飛沫を上げた。千絵はそのまま人質の首筋に当てたナイフを引き、首を切り裂いた。盛大に返り血を浴びてしまったが、これでこの部屋が確保できた。


 一郎は右側から飛び出した敵に牽制の弾を連射して部屋に引っ込ませたあとすぐ、千絵の突入した部屋に飛び込んだらしい。お陰で能力を使うことなく戦闘を終えたが、もう片部屋の人数は正確には分からない。部屋の中では血まみれのシーツがかかるベッドと、簡素なダイニングテーブルの間に殺した兵士二人が横たわっている。広くはないが、生活感はそれなりにあった。ふと、息苦しい思いにとらわれたが、それを振り払い、兵士が持っていた銃に手を伸ばした。
「この武器、見て。今時韓国軍の残党でも使ってないような銃。引き金は扱いにくいし、精度も最悪。こんなもので、今までこの街は守備されていた……。だから、私たちがいつも先制できたのかもしれない」
 銃の話をしても一郎には分からない。銃を調べる様子を訝る彼へ簡単にして言った。敵も出方を窺っているらしく、攻撃は仕掛けてこなかった。その間に千絵は血まみれになった顔を袖で拭って、一郎は弾を補充しスプリンクラーの真下にいたためにびしょ濡れになってしまった軍服の上着を脱いだ。
「簡単には進ませてくれないな。意外と持久戦になった……絶食しておいてよかったよ。今頃トイレ行きたくなってるかも」
「……お腹はどうしようもなく空くけどね」
 一郎は千絵を真似て、昨日から水も食事も絶っていた。勧めたわけではないが、理由を聞かれて答えたら、感心したように頷いていた。
「そんなことより……どうする?」
「俺は攻めたほうがいいと思う。長引かせて得をするのはあっちだ」
「……うん、私も賛成」
 腕時計に目を遣れば、突入開始からもう既に五時間が経っていた。常に気を張り詰めていたためあっという間に感じていたが、一階も地下一階も、予想以上に広かった。この階も同じくらいの広さだとすれば、のんびりしている時間はない。脱出路も探さなくてはならないし、分断された他の隊が心配だ。モニタリングされている気配はないが、分断した敵をそのままにして置くとも思えない。

 扉を開けて防火シャッターのある場所まで戻ると、敵も部屋の中に出戻ったようだった。跳弾の可能性を考えた位置で、その敵がいるだろう部屋に向け、死んだ兵士が使っていた銃を構えた。そして分厚い扉へ向けゆっくり撃つと、弾は貫通せず、めり込んだだけだった。
「……一郎、準備はいい?」
 小銃を渡し、頷いた彼と顔を見合せ壁に体を押し付けたまま、スタングレネードを構えた。一郎が扉に背を付け、わずかに隙間を空けた。扉に銃弾が撃ちかけられたが、貫通はしない。中の敵に扉が引かれ、閉じようとする間にスタングレネードを捻じ込み、爆発が起きたのを確認すると同時に、扉を再び開けた。
 怯んでいる一人をグロックを連射し始末して、次の標的は小銃を持ち直してきたためストレイジの能力に頼り、瞬発的に武器ごとその体を蹴り飛ばし、無力化。
 怯え切った顔がさらなる抵抗を試みるが、後ろ手を取って捻り、体ごと使って床に押さえつけた。
「脱出口はどこ?」
 訊くが、当然のように答えは返ってこない。
「教えて、脱出口はどこなの?」
 優しく言うと、兵士の震えが僅かに緩んだ。
「……言えば、殺しはしない。でも、言わないなら……」
「う、……上の! 天井を、銃で一通り撃てばわかる」
 朝鮮語を翻訳し、一郎に伝えた。言われた通りに兵士から奪った小銃で天井を打ち続ける音を聞いていると、ひとつだけ違和感を覚えるところがあった。
「一郎、そこ、重点的に撃って」
 千絵が指さした場所、一部分だけ木材で偽装された天井が、隠していたダクトを見せた。シャッターで分断されるのは敵も同じ。いざという時の脱出口がないはずがないと踏んだが、当たりだったようだ。
 そして、椅子を使ってダクトを覆う木片を千切り始める彼がこちらを見ていないのを確認してから、千絵は静かに、兵士の後頭部にグロックを押しつけた。

「……な、なぁ。……言えば、殺しはしない、ってさっき……言ったよな?」
 兵士が小さな声で呻いた。以前の自分ならば既に引き金を絞っていたはずだが、躊躇したためにその声を聞いてしまっていた。
「あんたなら……脱走したあんたなら、わかってくれるはずだろ? 俺は、戦いたくて戦ってるわけじゃ……!」
「私だって……そうだよ」
 取り繕った無表情で、兵士に銃を押し付ける力を強めた。
 兵士は暴れようとするが、適所を抑えて体が立たないようにしているため、どうにもならない。
「徴兵されただけなんだ。子供も、女房もいるから、どうしようもなかったんだ! 逃げようがなかった!」
「……」
 兵士の声は濡れていた。戦闘中の冷静なはずの頭が、揺れる。
 再び、先程の部屋で感じた息苦しい思いが、駆け巡った。少し前まで分からなかった"生きたい"という衝動が、今は分かる。分かってしまう。
「……命乞いは惨めだって、あいつは笑ったけど、俺はっ! ギルソンに殺された兵士の気持ちが分かった! 守りたいものがある奴は、死ねない!」
「だから……何?」
「あんたも、ギルソンと同じなのかって聞いてんだ。あいつみたいに、表情一つ変えないで……いや。笑いながら、マツキを殺せるのか? 守りたいものがあることを、綺麗事だって笑えるのか? 命とか、感情とか! 戦場じゃモノと同じだなんて、笑えるのか!?」
 駄目だ。
 千絵は直感した。引き金にかけた指に、力を込める。
 これ以上彼の言うことを聞いていたら、何かが、崩れる。
 一郎でさえ踏み込めなかった、今まで自分の奥深くに根付いてきた何かが、崩れて、消えてなくなる。
「私は、笑える。……モノと同じだよ。敵の命なんて」
 言い聞かせるようにして呟いて、彼の頭に狙いを定め直し、撃った。



 弾は、兵士の頭には当たらなかった。止めに入った一郎が銃を思い切り掴んで、引いていた。弾は銃口付近にあった彼の右手を撃ち抜いて弾道を変え、失速した。
 呆然としていると、一郎は千絵から銃を奪い取り、兵士の頭をグリップで強く打ちつけ気絶させて、そのまま床に座り込んだ。
 以前、狂気を鎮めるため安藤は手のひらを撃ったが、今度は違った。
 彼の――彼の小指は。血飛沫と一緒に、床に飛び散っていた。
「い……一郎っ……」
「……止血剤、持ってない?」
「な、何でっ! 何で一郎が……!」
「落ち着いて。止血を」
「だって一郎、指がっ……」
「千絵!」
 怒鳴られ、ようやく混乱を来していた頭が平静を取り戻した。医療用の道具は千絵と武田で集中的に分担しているため、一郎の背嚢の中には大したものが入っていない。慌てて背嚢を下ろして、中身を漁って、ガーゼと消毒液と化膿止めを取り出した。第一関節より上がない一郎の小指に消毒液をかけ、ガーゼで押さえた。激痛に引いた彼の右手を追って、再び押さえた。
「何で……何でそんな馬鹿なことしたの。そうまでして、止めるなんて……」
 なかなか血が止まらない指から顔を背け、小さな声でつぶやくと、一郎は怒ったようにこちらを見た。
「少し変わったと思ってたけど……何にも変わってないな。昔のままだ。……武田の施設でしたこと、朝鮮でしてきたこと、反省したんじゃなかったのか?」



          *



「……私、ちゃんと反省した。人との付き合い方も考えなきゃいけないって、思えるようになった。でも、戦争では別だよね? そんなこと、言ってたら、自分が殺される。割り切らないと。相手のことなんて、考えたら。考えたら、死んで、何も残らない……!」
「勇気がないんだよ千絵には。相手のことを信じることすらできない。俺には、朝鮮語は分からないけど。あの人が言っていたことは分かった。助けてほしい。そう言ってたんだろう? 千絵は、何も変わってなんかない」
 指が吹き飛んだ瞬間は大した痛みは感じなかったが、今になって激痛が襲ってきていた。だけど、苛立っているのはそこじゃない。落胆させられているからだ。自分との、考えの違いに。千絵にとって、命乞いをする敵の命は、そうまでして……指を失ってまで、止めることではない。
「私っ……分からないよ、一郎の言うこと。何で。何でそうまでして止めるの? そんなことするから、私、一郎の指を……! ごめん。痛かったよね。すごく痛いよね。ごめんね。……でも、私、分からない。家庭があったって、生きている人生があったって敵は敵だよ。危害を加えられる可能性があるなら、敵は排除しないとならない。だって、一郎がいるから、余計に……余計にそう思うようになったんだよ? 生きていたいって思うなら、殺すことでしか安全は確保できない!」
「違う! 今あの場面では、殺す必要なんてなかった! 無力化して、すべて取り上げれば、何も出来やしない!」
「全部取り上げたって、まだ手がある。足がある。口がある。……見逃したら、確実に反撃されないなんて保証はどこにもない! ひとつひとつの命に一々関わってなんていられない。モノみたいに切り捨てるしかない!」
「……それが本音か?」
 一郎が呟くと、千絵は目を丸く見開いて、慌てたように口を開こうとした。それを聞かず彼女の手を振り解いて立ち上がり、一郎はダクトに向かった。
「そんなに殺したいなら殺せばいい。俺は先に行く。千絵とは一緒に行動できない」
 彼女の表情は見ずに椅子の前に立った。見上げると、男一人がどうにか通れる空間が天井にあった。その先には道が繋がってるんだろう。
 背嚢を背負っては入れそうにない。まず、背嚢だけをダクトの入口に詰め込み、奥へ押し込んだ。

 そして椅子に足をかけようとしたとき、背中のシャツを思い切り引っ張られた。いい加減にしろよと振り向こうとするが、その前に声が降ってきた。
「私……駄目だ。まだ、分からない」
「……」
「ねえ、一郎、待って……。私が悪いなら、謝るから」
「謝るとか、謝らないとかの問題じゃない。千絵の考えについていけないんだよ。あんなに必死に叫ぶ人を平然と殺せる奴となんか一緒にいたくない」
 作業を続けるため前にもう一度椅子に足をかけると、彼女の腕が首元を包み、押し留められた。後ろから伸びたその腕を振り払おうとすると、耳元で聞こえたのは、涙交じりの声だった。
「ごめん。そんな奴で。でも……でもね。私が、一郎を好きなのは本当だよ。生きていたいって思わせてくれた一郎が隣にいるのが、すごく幸せだよ」
「……こんなときに、なんだよ、それ」
「私の考え方はいくらでも否定して。でも、幸せだと思うから……今を生きていたいと思うから殺すんだよ? さっきだって、生活がある相手のことを考えて、息苦しくなった。それも本当。だから……お願いだから、平然と殺せる奴だなんて、一緒にいたくないだなんて、言わないで。私が……生きていたいって願って、苦しみながら殺してるって気持ちだけは、否定しないで」
 小さな声だった。それでも一字一句ははっきりとしていて、訴えてくる気持ちは強く伝わってきていた。
 命乞いをした兵士の言葉も言語を超えて訴えかける心からの叫びなら、千絵の言葉の一つ一つも、心からの叫びだった。
 判断がつかない。
 誰が言っていることが正しくて、誰が言っていることが正しくないのか。生存率を高めるため敵には慈悲を与えず殺すべきなのか、人として接して誠実さを見極め逃すべきなのか。
 散々殺して数十人の人生を奪ってきて、この場合は殺さない、などと一貫性のないことをほざいている自分自身も、正しいのか、正しくないのか分からない。
 ……分からないが、頭の中が混乱し急に怒りが冷めてしまった心中には、短気を起こして千絵を傷つけてしまったと感じる気持ちが湧き上がって来て、首元に回された腕を、強く掴んだ。
「……ごめん。少し言い過ぎたかもしれない。……でも、あの場面で、あれが俺なら、間違いなく同じことをしたから。だから、甘い考えかもしれないけど、それを殺そうとした千絵が……」
 不貞腐れたように言葉を続けようとすると、ぎゅっと抱き締められ、一郎は言葉を留めた。
「……そこまで私を否定したんだから、これからもずっと、甘い考えで居てよ……? それで、私がその考え方から外れそうになったら、引き戻して。約束だよ」
 安堵した声音が妙に艶っぽく囁かれ、耳元に響いた。
 それから、腕が解かれ、彼女は背中を軽く押してきた。
「起きる前に、早く行こう。殺さないんでしょ、あの兵士」




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