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 PDAのネットワークも、さすがに中隊レベルの集合情報などは公開しておらず、一郎は仕方なく軍人に訊き込みをした。英国や中国といった様々な国の人々が入り乱れる中、語学堪能な千絵が話を上手く伝えてくれていたが、それでも割り出すのには時間がかかった。そして、集合場所を割り出したときには既に本隊が出発した後で、その場に残されていたのは先程トラックに乗り合わせていた小隊と、一郎たちだけだった。少しの間唖然としていた一郎の脇で、あの米兵……と苛立ち気に呻いたのは武田だ。
 
「どうします、足跡を追っていきますか?」
「……そうしようか」
 同乗していた眼鏡の隊員と頼りない隊長が、小さな声で話し合った後、本隊の進んだと思われる方向へ、小隊全員を誘導していった。六人で構成された彼らは、背中にマンパック型無線機を担いだ無線兵や、赤十字ロゴの入った腕章を身に付けた衛生兵など、どれも軍隊然とした趣だった。制式支給の無線など以ての外で、全員が医療道具を分担して背嚢に詰め込んでいるだけのこちらとは対照的だ。
「あいつら車に乗っているときは頼りない顔つきだったのに、戦場慣れしてそうだったな……俺らだけこんな場所ではぐれて大丈夫なのか?」
「そうか? なんとかなるだろ……」
 不安げな武田の声に、小隊の走り去った方向へ目を向けた安藤が返す。
「……安藤君、前線で本隊と離れてしまったことがどれだけ危険なことか分かっていないの? 火器も無線も医療用具も不足してるのに、本隊の補給を受けられなくなったら……」
「当たるな。悪いのは適当な運転をしやがったあの米兵だろ」
 あの米兵――土地勘も方向感覚も全くなく、舌打ちしてからその場を右往左往することは当然の運転。本来なら先行していた車両が見えなくなってしまったときに、無線で連絡を取り合うべきだったのかもしれない。だが、千絵の持つ小型の無線機では傍受される危険が高く……その発信位置等から、本隊が侵攻するルートを割り出される可能性があった。最も、全てが規格外な一小隊の無線を傍受する物好きがいるかどうかは分からないかったが。
「……とにかくあの小隊を追いかけないか? 上手くいけば合流できるかも……」
 長い間沈黙を守っていた宮沢が口を開く。
 確かに足跡は十分な手がかりにはなる……。だが千絵は、トラップを解除した痕跡を視界の片隅に捉えて、暗い面持ちだった。
 陥落寸前の陣へ増援として赴くという今回の移動の性質上、この森は重要なファクターを占めている。この付近の知られている道は川や谷に遮られる過酷な土地で、この先へ進む正規のルートとしては、この鬱蒼とした森を抜けるしかないからだ。だからこそ、敵の警戒も十分に予測でき、本隊と一定の間隔を空けながらもしっかりと連絡を取り合い進む、という連携が必要だった。しかしその連携は、もう望めそうにない。
 ただ、千絵は、本隊よりも一つだけ優れた情報を持っていた。土地鑑があるのだ。
 この辺りは国境を越えようとする者、いわゆる亡命者が多く見られる土地だった。そのため何度か警備に配置されたことがある。そして、森の中にも警備隊が配されているにもかかわらず、なぜ民間人が越境寸前のこの場まで来れるかという理由も、見つけていた。
「千絵、気分……悪いの?」
「え……? あ、うん、大丈夫」
 また自分の考えに入り込んでしまっていたようだった。安藤以外の三人が不思議そうにこちらを見ていたので、慌てて取り繕った。顔が少し熱くなったと感じたが、すぐに顔から表情を消した。
「……二年くらい前なんだけど、今本隊が目指している所と同じ村に出ることができる抜け道を見つけたことがあったの。それを今思い出していて」
「抜け道?」
「少なくとも、軍には知られていなかった。亡命者が使っていた抜け道だから。森を抜けるより厳しい地形ではあるけど、でも、深夜の森を私たちだけで進むよりは、危険が少ない」
「確かにはぐれたまま進むのは無理がありそうな気がする。足跡を追いかけても途中で途切れていたりしたらまずいだろうし……」
 一郎が肯定の言葉を発すると、武田は唸りながら耳の裏当たりを掻いた。
「結局、どうすればいいんだ?」
「小隊長は武田君だよ、自分で決めて。指揮系統をはっきりさせておかないと、いざという時困るから」
「……分かったよ。少し待ってくれ、情報を整理するから」
 
 
 
 
 武田は結局、小隊の後は追わず、迂回路を進むことに決めた。感情が揺れているように見えていたが、言うことはしっかりと言う。日常に関してはそれ程上手くこなせない彼女だったが、戦争に関しては自分よりも確かな考え方を持っているということは、話の節々から伝わってくる。
「今は深夜だ。特別な訓練を受けていない俺らは、小山田みたいにはいかない。誤射には注意してくれ。後は……えっと」
 千絵へ視線を移しそうになるのを堪えた武田は、それだけだ、と付け足すように言った。戦闘が自分よりも優れている一郎たちが相手だと、本当にやりにくい。とにかく、いざというときの状況判断だけは誤らないようにしよう、と頭の中で考えた武田は、小銃を担ぎ直した。



          *



 驚くくらい、以前この道を辿ったときと、いま歩んでいるこの場所の様子は変わっていなかった。踏み跡が更新された形跡はもちろん、脇を流れる川の水量も変わらないに等しい。そして村の入り口にそびえる大木に刻まれた弾痕と、血痕も。
 ――母さん!
 唐突に、少女の声が蘇る。
 千絵は、手を伸ばして弾痕をなぞった。
「着いたよ」
 振り返って、小さな声で言う。
 この大木があるのは、だんだんと道が開けてきて、村の片鱗がおぼろげながら姿を現し始める場所だった。
「ここから先は、四人で行って。私は、入れないから」
 千絵は、背負っていた背嚢を地面に置いた。安藤は小さく頷いたような素振りを見せると、大した反応もせずに先へ進んだ。一郎は千絵を一瞥したあとで安藤に倣った。
「ここ、動くなよ」
 武田もそう言うと、村へ入っていく。最後に何か言いた気に通り過ぎようとした宮沢も、武田に引っ張られ、村へと入っていく。その後ろ姿が確認できなくなったところで、千絵は息を吐き、もう一度大木に手を添えた。

 あのとき、親子二人が中国との国境を跨ぐ川を泳いで渡ろうとしていたところを見つけた自分は、管轄で脱北者を出さないために入水し、二人を追いかけた。飢餓で筋肉が削ぎ落ちた母親の方は大した抵抗もなく捕まったが、娘の方はばたばたと暴れて厄介だったので、首を引っ掴んで無理矢理岸まで連れて行った。
「……これ以上暴れたら、収監所にも入れなくなるよ」
 岸に辿り着いてなお暴れる少女に、拳銃を向けた。
「どうせ母さん、こんな所にいたら死んじゃう! ……お願い! あっちに渡って親戚に食糧を分けてもらうだけなの! すぐ戻ってくるか……」
 涙を流しながら懇願する少女が言葉を言い終える前に、千絵は彼女を蹴り倒した。
「うるさい……」
 その目にあったのは、純粋な殺意だけだった。




 そこで、千絵ははっと目を瞠った。大木を見て思い起こされた過去が、自分の所業が、断片的に頭の中へと広がっていた。人間として最低限の、考える心が備わっていれば、あんな顔はできない。
 大木から手を離し、憔悴した表情を宿した顔を、上げる。
 空は丁度朝陽が差し込むところだったが、晴れ晴れとした気分は抱けそうにもなかった。


          *



 村の住人達は、意外に協力的だった。入り口で立ち話に興じていたいた人々に、片言程度なら話せる安藤を通訳に立て、所持していたウォン通貨を少しずつ分け与えると、村にひとつだけある小さな宿をすぐに紹介してくれた。日本の軍だということに気付いていないだけなのだろうか。  町の中では、先行していたはずの本隊は見当たらなかったが、数人の国営軍兵士の姿は確認できた。何かあったのかと武田が訊こうとしても、疲弊しきった様子の兵士達は生返事を寄越すばかりで、少しもまともな答えは返ってこなかった。仕方ないから今日休んで明日訊こう。そう言った武田に随従し、一郎たちは紹介された民宿に到着した。
「おもてなしは大して出来ませんが、ガスは使っていただけますし、清潔なベッドでお休みいただけます」
 主人らしき男が言った言葉に甘えて、一郎たちはお湯を沸かし、そのお湯でレトルトの味噌汁カップとご飯のパックを温めさせてもらった。台所でそのまま食べることになり、腹を空かせた様子の主人の目の前であっという間に食べきった安藤に呆れながら、三人はそれぞれ主人に夕食を分け与えた。彼はとても喜び、すぐに食べ尽くしてしまった。
 
 
 しばらく経ってから、自分の食事を終えた主人が皿洗いをする中、再びお湯を沸騰させた一郎は、同じ要領で千絵の分を作った。それを手に持ち、立ち上がる。それぞれ自分のすることがあるらしく、顔を上げない三人は、誰も一郎を見咎めたりはしなかった。
 扉を開くと、冷たい外気が食事で暖まった体を刺激し、一郎は一度身震いしてから最初にこの村へ入った道を探し、見つけると同時に足を踏み出した。よくこの寒さの中、外で過ごせるよな……だが何か理由があるには違いないから、これを渡すときにでも確かめよう。千絵とは何気なく話をしようとしてもすぐに途切れてしまうため、一郎は事前にいろいろと会話を組み立てる必要があった。とりあえず今回は理由を聞いたらさっさとこれを渡して部屋に戻ろうと決めた。直後、村の入り口で相変わらず大木に寄り掛かっていた千絵を見つけた。
「千絵……?」
 しかし今回の千絵も、いつもと同じように一郎の組み立てた会話を、ばらばらと崩した。

 振り返った彼女の顔は今にも泣き出しそうな脆さを表情の端に秘め、一郎と目を合わせたあと、すぐに俯いた。
「何……?」
「い、いや……ご飯、まだ食べてないだろ? だから、これ、あげようと思って……」
「気、遣わなくていいよ。今は要らない」
 一郎は困った表情をして、両手に抱えた味噌汁とご飯に視線を落とした。ここへ来てからはいつもこの調子だったが、それでも今の千絵はそれらにも増して暗かった。何かを思い詰めていることはどことなく伝わってくるが、その原因は分からなかった。
「食べておきなよ。次はいつ温かいものを食べられるか分からないんだから……」
「要らないって言ってるの」
 冷たい切り返しに、苛立ちよりも数歩先に、悲しい気持ちが立ち上ってくる。それでもどうにか話を続けようと、
「……じゃあ、置いていくから、あとで、食べて。……また、見に来るから」
 声まで沈み込まないようにトーンを明るくして言ってみるが、千絵は俯いたまま、反応を寄越さない。一郎はゆっくりと両手に持った食事を下ろし、箸をその上に置いた。それから、何をしようというあては無かったが、一瞬見えた千絵の表情を思い出し、そのまま一人にすることは良くないのではないか、と考えた。一郎は、帰るふりをして、大木の裏側に回りこんだ。
 そして背を預けて程なく聞こえてきたのは、千絵のしゃくりあげる声だった。驚いて木から身を乗り出しそうになって、そこで堪える。発作中の姿を他人に見られることを嫌う千絵が頭に浮かんだ。
 ……泣き止んだら声をかけよう。そう考えて、一郎は、上がりかけた太陽と視線を合わせた。


          *


 川辺から母親の案内で村へと戻り始めた千絵は、母親の方の手を布で縛り、十歳にも満たないであろう娘の腕を引っ張って歩いていた。この様子ではもう抵抗は無いだろうと、少し油断した。そこで予測していなかった事態が起きた。村の入り口が見えてきた辺りだった。母親が、千絵に向かって体当たりを仕掛けてきたのだ。よろめいた千絵の手から腕を振り解いた娘は、元来た道を全速力で駆け出した。追いかけようとした千絵に、さらに母親はもう一度体当たりをした。母親の腕を縛っていた布は、既に解けてしまっていた。舌打ちをした千絵が、横面を強く殴ると、肉付きの薄いその体は、地面にあっさりと倒れ臥す。その隙に体勢を立て直し、娘を追おうとしたが、今度は足首を掴まれ、千絵は転倒した。引きずられ母親の方へと引き寄せられた千絵は、彼女の腕が自分の腰に差し込んである拳銃に伸びるのを見て、再び彼女の顔を強打した。
 すると母親は千絵がもう一度殴ろうとして腕を戻そうとする間に、その細い手首に噛み付き、引き千切らんとする勢いで引いた。
「くっ………」
 もみ合いの中で初めて声を洩らした千絵は、逆の手で顔を何度も何度も殴りつけ、その口から腕を救い出す。
「娘は絶対に渡さないわ……」
 大木を支えにして立ち上がり、まだ縋(すが)り付こうとする母親に、千絵は素早く身を引いて立ち上がり、両手で拳銃を構えた。絶対に外さない。
 頭を正確に撃ち抜いた。脳漿が母親の背後にそびえる大木に飛び散ると、すっかり窪んだ目元から目玉が落ち、千絵の足元に転がった。その目玉もこちらを見上げていた。肌が粟立ったことを自覚した千絵は、息を荒げ、その遺体を何度も何度も撃ち抜いた。それでもまだ恐怖は拭えず、もうとっくに死んでいるその遺体を、ナイフで何度も何度も突き刺し、切り刻んだ。



「千絵……?」
 一郎の声で、再び我に返る。どんな表情であるか自分でも分からない顔を一郎に向けてから、その顔を隠すべく俯いた。
「何……?」
「い、いや……ご飯、まだ食べてないだろ? だから、これ、あげようと思って……」
「気、遣わなくていいよ。今は要らない」
 空腹は感じていたが、早くこの忌まわしい大木から離れたかった。話しかけて欲しくなかった。今、千絵の頭は、あとのとき殺した母親のことと、それに連なって蘇った、朝鮮での残虐な自分の行動を鮮明に保ったままだった。
「食べておきなよ。次はいつ温かいものを食べられるか分からないんだから……」
「要らないって言ってるの」
 そういった自分の顔は、恐らく悲しみの形を作っていた。本当は差し出された食事を撥ね付けようとしたが、顔を見られたくなかったので言葉で示した。それでも一郎はただでは退かず、
「……じゃあ、置いていくから、あとで、食べて。……また、見に来るから」


 千絵は彼の足音が遠のくのを確認してから、顔を上げ、レトルトの味噌汁カップから湯気が立ち上っているのを見た。しゃがんで何気なく手にとってみると、手に温もりが伝わった。頭の中で再生されていた記憶に混じって、ついさっき聞いたばかりの、一郎の気遣う声が思い出された。
 そして味噌汁に口をつけて啜ると、そこへ、雫が一滴落ちた。そこからはもう、止めようが無かった。いろいろなものがないまぜになって、涙は流れ続けた。涙が入るのも気にせず味噌汁を一気に飲み干すと、千絵は目をこすり、それを止めようとする。だがそれは止まらず、ついには口から嗚咽が洩れ、鼻水も流れ始めていた。なるべく早く収めようとしたが、上手くいかない。拳銃を向けたときの母親の顔が思い出されてからは、脳裏にこびりついて離れてくれない。
「ごめ……っい……ごめんなさい……」
 何度謝っても……その顔は憎悪の形で結ばれていた。




 どうにか涙が止まったのは、それから随分時間がたったあとだった。昇りかけていた太陽は、既に高く昇り、日光を振り撒いていた。その眩しさに目を細めた千絵は、立ち上がる。痛み以外のものでこれだけ涙を流したのは、何年ぶりだろう……。そう考えてから、川辺で顔を洗おうと歩き始めると、何か物音がしたので、振り返った。
「一郎……」
 呟くと、彼は少し慌てた様子で立ち上がって、口を開こうとした。
「見てた……?」
「い、や……見てはいないよ。ただ、えっと……心配だったから、泣き止むまで、待ってようかって思って……」
「……」
「……本当に、心配だったんだ。千絵が泣くなんて思いもしなかったし……しかも突然……」
 必死に言葉を繋ぐ一郎に、千絵は歩み寄った。頭の中が妙に明瞭で、彼の表情がくっきりと分かる。困り果てた顔をしている彼は、いま抱いている自分の気持ちをぶつけても、しっかりと受け止めてくれるだろうか。

「……私、自分の頭で考えることが、できるようになったよ。私にだって、感情はしっかりと戻ってきたよ。今までやったことを後悔することも、できるよ……」
 千絵は一郎の目の前に立つと、彼の軍服の胸あたりを両手で掴んで、そっと押した。一郎は大木に背中をついた。
「……私が、今までにやったことを、一から十まで全て聞いても、一郎は、そんな態度で接してくれるの? 私が自分でしてきたことに押し潰されそうになったとき、いつも拾い上げて、助けてくれるの……? 私に考える力を戻した責任を、取ってくれるの………?」


          *


 千絵の顔が、目の前にあった。
 どう反応すればいいのか苦慮していると、極めて静かな声が、至近距離から一郎の耳に届いた。
「思い出したの。ここで、朝鮮で、私がしてきたこと……」
「……」
「脱北しようとした母と娘を捕らえて、娘を庇って向かってきた母親を殺して、死体をずたずたに切り刻んだ。足を怪我した味方の装備をすべて奪って自分のものにして、自分が生き延びるためだけに、彼を敵地に置き去りにした。一般市民を……小さな赤ん坊を誤射しても、なんとも思わなかった。……人の倫理に反することを、たくさんやった」
「………」
「……もっと詳しく話そうか? ……ねえ、私、どうしようもない人殺しだったんだよ。この国では。承晩が次郎にしたことより、もっと酷い事を、たくさんやったんだよ」


「ねえ! こんな私に、今をしあわせに生きる資格なんてあるの……?」
 そこまで言うと、千絵は顔を歪ませ、手は一郎の胸の辺りを掴んだまま、顔を俯けた。
 一郎はまだ対応を迷っていたが、より強い迷いが目の前の少女から伝わってくると、言葉で言い表せない気持ちが渦となり、彼女の後頭部を腕で抱え、引き寄せていた。
「あるよ。それに俺、千絵を見捨てたりなんかしない……」
 そう一郎が言い終わったとき、自分の肩に顔を埋(うず)めた千絵が、小さく喘いだ。そこから身体を震わせはじめた千絵の髪を、恐る恐る撫でると、彼女は腕を一郎の背中へ回して来た。温かい感触が彼女の上半身から伝わり、自然と顔が熱くなっていく。


 ……抱き止めて、初めて自分の中で分かったことがある。今までに家族以外に愛情を向けることを知らなかった自分は、その気持ちになかなか気付けなかった。
 俺は……白髪で、無口で、無表情で、でも不器用で、自分の犯した罪に押し潰されそうになっている目の前の少女が、傍ヶ岳で、自分の発作も顧みずに手を差し伸べてくれたときから……両親が死んでから、狂気が生まれたときから、外圧に負け続けた自分を、そんな自分を極地から救おうとしてくれた千絵が……愛しくて仕方が無かったんだ。




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