自己報酬依存症

その鼠は二十六時間連続でレバーを押し続けた

 女の運転する車が狭い山道を走った先にあったのは、四方を山に囲まれた盆地のようなところだった。いろいろなところを旅行して回ったが、ここまで徹底して山に囲まれているのは、初めて見る風景だった。
 ここに連れてこられるまでの経緯を思い、
「殺されるのか、俺」
 頭に浮かんだ言葉を冗談めかして言ってみた。女はにこりともせず、
「それはあなた次第ですね」
 と言った。
 なりふり構わず車を奪って引き返すべきか、と思ったが、由佳と会えるかもしれないという期待がその行動を踏み止まらせた。誘拐した人間を隠し通せるとしたら、こんな山の中以外はあり得ない、そんな確信めいた気持ちもあった。
 遠目には何やら曰くありげな廃墟群に見えた盆地の街は、近づいていくと、少なくない人が生活していることが分かった。歩いているのは研究者然とした、白衣をまとった人ばかり。小学校の校舎のような場所では、深夜だというのに電灯が煌々と光っている。塗り直したペンキすら剥げかけ、コンクリートの無骨な正体を覗かせている建物もある。いまはスーパーになっているようだ。この店も、深夜だというのに開いている。
 やがて、何もない空き地の前に差し掛かると、降りるよう言われた。
 クーラーのきいていた車内から出た途端、何とも言い難い熱気に包まれた。
「何もないじゃないか」
「ついてきてください」
 そう言うとまた、俺の反応を確かめもしないで空き地の中を進んでいった。空き地は黄土色とこげ茶の混ざった土で覆われていて、所々に彼岸花が群生している。
 彼岸花の群生の中の一つを前にして、女は膝を曲げてしゃがんだ。彼女が手をかざすと、『認証されました』という機械音声が聞こえ、ガゴン、と小さな音がした。何かが外れるような音。女はそのまま手を突っ込んだ。続けて、トタンでできた蓋が現れたと同時に、奥に向かって倒れた。女は手で、彼岸花の群生の中を指し示した。
「先へどうぞ」
 先へ行けば、引き返すことはできない。
 根拠もなくそう感じ、俺は躊躇った。しかし由佳に会えるならと、最後にはまた、その期待が勝った。
 中を覗いてみると、正方形にくりぬかれた空間が下へずっと伸びていた。薄暗くてよく見えないが、梯子が壁に埋め込まれているらしい。
 此岸と彼岸。この世界から、ここではない世界へ。境界を示す意味で彼岸花が植えられているんだとしたら、大した皮肉だ。
 俺は正方形の縁の部分に手をかけた。狭いのでうまく体が入らず、無理な態勢移動に足が悲鳴をあげたが、ぐっと堪えて正方形の中にねじ込み、梯子に両足を揃えた。そこからは等間隔に並んだ梯子を一段一段、下りて行った。
 二十段くらい下りたところだろうか。足がようやく床についた。
 上を見上げて、女が下りてくるのを確認したあと、体を反転させた。道が先に続いているつもりで歩き出そうとしたら、目の前にはすぐ壁があった。どういうことだと見回すと、右のほうにスイッチがあった。押してみたが、反応はない。
 梯子を下り切った女が俺の隣に並び、スイッチを押す。今度は静かに、壁が横へ割れた。そこにはエレベーターがあった。目で促され、また先に乗る。女も乗って、エレベーターの操作スイッチに触れた。十五階のランプがつき、扉が閉じる。
 十五階? 地下の?
「気圧や温度への対策は万全です。ご心配なく」
 女がそう言ってから、十五階に到達するまで、お互いに何もしゃべらずじっとエレベーターの駆動音を聞いて過ごした。
 やがて到着を知らせる素っ気ない効果音が鳴り、扉が開いた。そこはここへ来るまでの廃墟然とした家屋とは全く違った、綺麗に整備された未来的な空間だった。天井の蛍光灯がまっすぐに伸びた廊下を照らす。等間隔に配された灰色の厳めしい扉が、廊下の奥のほうまで並んでいる。うっすら黄緑がかった壁は、つるりとした材質だった。病的なほど清潔に磨かれていて、俺自身の姿が映っている。
「ここからは道なりです。まっすぐ行ってください」
 エレベーターから降りず、女が言う。
 俺は何も言わずに別れようとして、足を止めた。
「一応、言っとく。案内してくれてありがとう」
 女は操作パネルに伸ばしかけていた手を一瞬、止めた。
「あとで私を恨むことになると思いますよ」
 彼女は物憂げな表情でぽつりと零した。
 エレベーターの扉が音もなく閉まった。
 
 ひたすらまっすぐに伸びた廊下を歩いた。しばらくして、遠くに影が見えた。
 近づいていくとそれはスーツ姿の男だった。彼も俺の姿を認めたのか、こちらへ向かって歩き始めた。
「皆瀬颯太か」
 どうして名前を、と訊いても無駄だろう。訊く代わりに頷いた。
「こっちだ」
 長くこういった仕事を続けていたら、相手の反応などどうでもよくなってくるのだろうか。先ほど別れた女と同じように、この男も俺の反応を待たずに背を向けた。
 やがて男は一つの扉の前に立った。俺はその男の肩口から、扉の表札を覗き見る。単に、『3』とだけ書いてあった。
 男について部屋の中へ入る。
 両脇に、ひたすら機械のようなものが並んでいるだけの部屋だった。男について歩きながら、丸みを帯びたその不思議な形状の機械を観察する。高さは五メートルもあろうかという大きな機械で、奥行きと幅もかなり大きめに取られていた。入り口は、半透明のガラス張りになっていて、出入りができるようだ。中には……人がいる。人間が、機械の中に入っている。
「何だよ、これ……」
 まさか、この部屋にある数十台の機械全部に、人間が入ってるのか。
 俺の戸惑いも素知らぬふりで、男はひとつの機械の前で立ち止まった。
 脇にあった『45』とだけ書かれたパネルに男が手をかざすと、楕円形の半透明ガラス窓が、ゆっくりと真上に開いた。
 俺は、息を呑んだ。
 中は小さな生活空間だった。一番奥には浴槽とシャワーのソケットがあり、その手前にはトイレがあった。入り口すぐの場所に、食事台があった。
 そして部屋の中央には、大きな椅子に座り、目を閉じた由佳がいた。
 俺は言葉を発する時間も惜しく、食事台を踏み越えて由佳のもとに飛び込んだ。
 椅子から由佳の体を降ろして、その場できつく抱きしめた。
 しばらくそうしていているうちに、一見して眠っていると思った由佳の様子がおかしいことに気付いた。
「由佳。由佳?」
 体を離し、改めて由佳を見た。
 半開きになった口もとからは涎が垂れている。頭からは何かコードのようなものが伸びて、後ろの椅子とつながっている。体はぐったりと力なく、俺のなすがままになっている。それなのに、由佳の右手の親指と人差し指だけは、なぜか小刻みに動いていた。無意識の反応というより、しっかりと意思を持って動いている感じだった。
 事態が呑み込めないでいると、由佳の目が薄く開いた。
「誰……?」
 かすれた声で、由佳が呟く。
「颯太だよ」
「そう、た……」
 目を開けても、俺の名前を読んでも、右手の親指と人差し指とを擦りあわせるのをやめない。
 涎がまた一筋、口から流れ出た。
 俺は由佳の体を椅子に戻し、ここまで案内してきた男を睨んだ。
「由佳に、何をした……」
「勘違いするな。我々が強引に、ここへ引っ張り込んだわけじゃない。彼女は自ら望んでここへ来た。心当たりがないわけじゃないだろう、皆瀬颯太」
「こんなところに由佳を誘拐するような人間に、心当たり? 悪いけど、ないね」
 激しても何の得にもならないことは、男の場慣れした雰囲気で分かった。怒りを押し殺し、努めて冷静に、切り返す。
「全国救心会」
 男は呟いた。
「政府後援のその団体の会場には、毎回、数百もの人が集まる。夫を亡くした者、妻を亡くした者、孤独に打ちひしがれる者、耐え難い苦痛に苛まれる者、事情はどうあれ、何かしら心に大きな穴が開いてしまった者たちだ。その中でも特に、大きな欠落を抱えた者がいる。それが、今この場所にいる者たちだ」
 男は辺りを見回しながら、続ける。
「まず、会場に来た者に、臨床心理士のカウンセリングという名目で、調査を施す。数十人で対応して、一人の来場者を二十分でさばく。もちろん彼らは臨床心理士の資格なんて持っていない、我々の仲間だ。それが終わると、夫を亡くした人間による、幸せになるための講演が始まる。その間に我々は、目ぼしい人間をリストアップする。より深く、より大きく、人生に絶望している者を。彼女はそれに選ばれた」
 顎で、由佳を示す。
「数百人の中からより分けた数名を、別室に連れて行く。そこでちょっとした体験をしてもらう」
「体験?」
「電気刺激だ。脳への。しかし外部からの刺激だから、それほど大した快感はないし、中毒性もない。普通の人間なら、そこで、怪しげな連中に関わらずに逃げ出す。実際、一人は途中退席した。だが。皆瀬由佳は、残った。我々も悪魔じゃない。危険性や将来どうなるかはしっかりと説明した。けれどそれでも皆瀬由佳は、もっと大きな快感を得ることを望んだ。それは」
「嘘だ!」
 説明があまりにもなめらかでよどみなく、口をはさむ余地がなかった。
 このまま喋らせていれば、どんどん都合のいい方へ話を持って行かれてしまう。俺は怒声で無理矢理、その流れを断った。
「由佳はアルコールもタバコもやらない。ましてや薬物に手を出したこともない。俺は由佳がどんな人間か知ってる。あんたなんかよりずっと知ってる! 由佳はそんなことを望んだりしない!」
「果たしてそう、言い切れるか。君こそ、見て見ぬふりをしているんじゃないか。知っているからこそ、分かることもあるだろう」
 見て見ぬふり。
 作り笑顔しか見せなくなった由佳、痩せ細っていく由佳、過剰に気遣う由佳、寝室の片隅で体を縮こまらせて泣いている由佳、憑かれたようにセミナーへ通い始めた由佳……。
 俺は首を振った。
「知らない。俺は何も……」
 今度の休みは伊豆に行こう、と俺が誘った。由佳も頷き、二人とも、週末の予定を励みに仕事に打ち込んだ。
 行きは由佳、帰りは俺。車の運転はいつもそう決まっていた。
 伊豆へ向かっていた土曜日の朝。交差点の信号待ちをしていると、交差する道路の信号が赤になった。運転がやや乱暴な由佳は、青になると予測して、信号が変わるのも待たずに発進した。
 そこへ、赤信号を無視して突っ込んできた飲酒運転の乗用車。
 青信号に変わってから発進していたら、恐らくぶつかることは避けられた。けれどそのちょっとしたタイミングのずれが、助手席側に乗用車を衝突させてしまった。
 助手席にいた俺は車の接近に由佳より早く気付き、とっさによけようとした。それでも間に合わず、両足を一瞬で潰された。
 そのときの由佳の狂乱ぶりは、尋常な反応を逸脱し、実際に怪我をした俺の狼狽をはるかに越えたものだった。今日の夜、俺が部屋で暴れたことですら、ちっぽけな出来事に思えるくらいの。
「まあ、いい。認めたくないならな。より大きな快感というのは、その装置だ。それは、人間の自己報酬系に直接、電気刺激を促すものだ」
「そんな説明はもうしなくていい。由佳は連れて帰る」
 俺は男に背を向け、由佳の頭に刺さったチューブに、手をかけた。
「やめておけ。無理に引き抜くと死ぬぞ」



   *



 私は何十回と繰り返した説明を、続ける。
「いまその女の脳内には電極が埋め込まれている。視床下部外側野あたりにな。聞いたことくらいはあるだろう。視床下部は」
「生命維持に必要な器官だ。おっさん、てめぇが言ってんのは、オールズの研究だろ。ネズミの頭に電極を埋め込んで、レバーを押せば自己報酬系に直接電流を流し込む仕組みだ。薬物中毒と違ってキメたあとの不快感もない。そのことを覚えたネズミは、一秒に一回以上、二十六時間連続で休むことなくレバーを押し続けた……胸糞悪ぃ実験だ」
 彼はそう言って、俯いた。それから押し殺すように息を吐いた。
「けど、それで諦めさせるつもりなら、無駄だからな。そのネズミは、刺激をやめた途端に行動を停止した。つまり中毒にはならない。電極を抜きさえすれば、元に戻る」
 私は拍手をした。
「御高説感謝する。その結論までたどり着いたのは君で十三人目だ。だけどそれは、ネズミの話だろう。人間でやったらどうなるか、君は知らない」
 女に視線を遣る。
「諦めるしかないんだ、君はもう」
 それでも男は、女のチューブから手を離さない。
 仕方なく私は、拳銃を懐から取り出した。
「君には二つの選択肢がある。今ここで死ぬか、この実験に協力するか」



   *



「協力なんて、するわけないだろう」
 親指と人差し指をこすり続ける由佳を横目に、俺は男の構えた拳銃を見つめる。
「どうしてこんな真似ができる。バックには何がついてる」
「忘れていないか? 全国救心会は政府後援のNPO団体だ」
「政府、後援……」
「そうだ。労働者人口は減り続け、それでいて国民は外国人労働者の排斥と余暇の自由を望み、そのせいでこの国は衰退の一途を辿っている。それが奴らの言い分だ。政府は、かつてのような、健全な労働者を欲しがってる。毎日最低十五時間以上働き、余暇は望まず、低い賃金で、それでいて高いモチベーションを保てる人間をな。この実験は、その第一歩だ」
 人間は……自己報酬系を備えたすべての生物は、何かを行い、何かを得ることでしか、充足感を得ることができない。
 だから人は、食べ、飲み、触れ、見て、聞き、話し、書き、怒り、泣き、笑い、喜び、耐え、働き、遊び、日々を過ごしている。
 けれどこの男の説明を聞く限りでは、これから先、人がそんなことをする必要はない。自己報酬系に直接刺激がいくというのは、そういった一切を全て彼方になげうって、しかもそれらよりもはるかに大きな快感を手に入れることができる、ということだ。必要な時に自己報酬系を刺激し、必要な時に底知れぬ快感に浸ることができる。何秒でも、何分でも、何時間でも、何日でも、何か月でも、何年でも。
 政府がこの技術の開発に成功したら、人々は働き続けるだろう。自己報酬を得るために。正確には、どんな時にでも快楽を約束してくれる、自己報酬系への刺激を得るために。
 だが果たしてそれは、生きているといえるのだろうか。
 俺は由佳の頭に刺さったチューブから、手を離した。俺は椅子に座る由佳を見下ろし、呼びかける。
「由佳」
 返事がない。
「由佳!」
 親指と人差し指だけが動いている。
「由佳っ!」
 ありったけの大声を出すと、ようやく由佳が、顔をあげた。変わらず親指と人差し指を動かしていて、目の焦点が合っていない。
「そー、た……」
「何やってんだよ、こんなところで」
「そう、た……」
「由佳。もういい。俺は生きてる。足なんか、すぐ慣れる。由佳が気にすることじゃない。だから……」
「ちがう、わたしが、わたしが、ちゃんと、あおに、かわってから、くるまを、だせば……」
「もういいんだ。早く家に帰ろう」
 精一杯優しい声音を使って、手を差し伸べる。
 由佳は俺の手を掴まなかった。
「かえらない。ここにいる。きもちいいの。ここにいると、すごく……。ほんとうに、ほんとうにきもちいいの」
「帰ろう」
 すると由佳は、焦点の合ってないままの目から、一筋の涙を流した。
「かえれない。あなたの、かおを、みるだけで、くつう、せきにん。きを、つかわれる、たびに、こわい、くるしい、いたい。だいじな、だいじな、あなたの、じんせいを、こわした」
「……そんなこと言うなよ」
 由佳の目尻から、涙が次々と零れ始めた。つられて俺も、涙を流した。声が震えないように必死に抑えながら、言う。
「そんなこと言うなよ。だってさ、だって、俺、由佳と会うまで、生きていて楽しいなんて、思ったことなかった。別にいつ死んでもいいって思ってた。でも、由佳に会って、変わったんだ。大げさじゃなく、世界全部が、変わったんだ。死にたくない、いつまでも由佳と一緒にいたい。俺、そう思ってたんだ。いや、今も、そう思ってる。由佳がいなかったら、俺の人生なんて、何の値打もない。だから、だから……」
「できない、もう、だめ。そうたは、あたらしい、ひとを、みつけて、しあわせに、なって。わたしは、もう、つかれた」
 由佳の右頬に、手を伸ばす。触れると、由佳の目の焦点が合った。その瞬間だけ指を擦り合わせるのをやめ、両手で、俺の手を包み込んだ。
「幸せだったよ、わたし」
 由佳はにこりと微笑んだ。するりと手を下ろした彼女は、椅子に体を預けた。それからまた、指を擦り合わせ始めた。
 俺はその場に、泣き崩れた。両足の義足が嫌な音を立てるのも、拳銃を向けたままの男がいるのも気にせずに、泣き続けた。

 男が俺に、決断を迫る。
「いい加減決めろ。協力するか、ここで死ぬか」
「俺は……」



   *



 私は男の頭を撃ち抜いた。女は男が死んだのもわからずに、ただひたすら、親指と人差し指をこすり続けている。
 あとは掃除係に任せよう。
 男の死体を一瞥してから、踵を返した。
 ちょうど、チャイムが鳴る。
『朝食の時間です。被験体は食事待機状態に移行します。担当者は持ち場へ向かってください』
 実験機械の並んだ部屋を出て、いつもの担当の場所へと向かう。
 廊下は同じ風景が続いている。もう何年も勤めているのに、いまだに迷いそうになる。同僚たちとすれ違いつつ歩き続けた私は、担当の部屋、『3』番の扉の前に立った。
 私はスーツに返り血がついていないかを入念に確認し、髪をしっかりと撫でつけた。
 扉を開くと、目の前には朝食を載せた配膳用のカートが三つ、置いてあった。片手で二つ、片手で一つのカートを押しながら、実験番号三十番から食事を配り始めた。手をかざして実験装置を開き、朝食を食事台に並べていった。
 そして最後の四十五番の装置の前で、私はひとつ、深呼吸をした。
 この一瞬のために生きている自分が、いま感じている喜び。いつでも得られる、自己報酬系への刺激。それはどちらが大きいのだろう。
 ここの研究者なら、後者だ、と答える。
 だが俺は……私は、そうは思わない。
 実験装置を覆うガラス戸がゆっくりと開く。
 そこには、電流刺激の調整によって、朝食を待つように仕向けられた女性が座っていた。過度な快楽に浸り続けた体は見るからに脆く、今にもこの世から消えてしまいそうな儚さを纏って、出迎えてくれる。
 どこも見ていない目もと、誰に向けられたものでもない空疎な笑顔。
 それでも私は嬉しくなって、笑う。
「朝ご飯だよ、由佳」






(2012/11/18)

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