幕間 聖母の遺したむかしばなし
むかしむかしのある町に、とても勇ましい青年がおりました。
ある時、母と口論となった青年は、かっとなり、母を殴りつけてしまいました。
父は、愛する妻が死の縁に立たされたことを嘆き、青年を殺そうとしました。
死を覚悟した青年は、隙を突いて、死にかけた母を喰らいました。
そうして手に入れた魔力によって、青年は逃亡し、世界の片隅に小さな世界を生み出しました。
追う父は、小さな世界を何度も壊そうとしました。
大地を揺るがすアレゴルの槌まで用いましたが、ついに壊すことはできませんでした。
青年は、小さな世界の中でひとり、父を超えるための鍛錬を続けていましたが、やがて、一人きりであることに耐えきれなくなりました。
そこで青年は、自分がもといた世界を、小さな世界の中に作り出すことを思いつきました。
海、陸、空、時間をかけてさまざまなものを作りました。
最後に、自らの仲間を生み出そうとしました。
しかし青年には、父のような力はありませんでした。
何度繰り返しても、不完全なものしか生み出せません。
青年はついに、不完全であることを受け入れました。
青年は、自らの身体能力を色濃く受け継いだ人々と、自らの頭脳を色濃く受け継いだ人々を、それぞれ別の場所に住まわせ、彼らを見守りました。
やがて青年は正体を隠して人々のなかに暮らし、自らが造り出した人々とのあいだに幾人もの子を成したのち、長い、長い人生を終えました。
死を迎えた青年の体は、たちまち黒い霧となり、消えてしまったそうです。