幕間 むかしばなし


 むかしむかしのある町に、とてもきれいな少女がいました。

 少女は生まれたときから、不思議な力をもっていました。少女が笑ったり喜んだりすると光が体からあふれ出し、怒ったり悲しんだりすると黒い霧が体からあふれ出しました。両親は人里離れた農地に家を建てて移り住み、少女を人目に触れさせないようにしました。

 両親や動植物とともに過ごしながら十二歳を迎えた少女は、両親に付き添われ、洞窟の中で成人の儀を行いました。少女はそこで見つけたきれいな石を持って帰り、首飾りにしました。それからというもの、黒い霧がいっそうはげしく少女の周りを包むようになりました。やがて、両親がいない間に尋ねて来た町の人から、うわさが広がってしまいました。力は畏れ忌むべきものだったため、少女は人目に触れない場所でひっそり殺されることになりました。けれど、初めて両親や動植物以外と話す機会を得て喜んでいる少女を、処刑人は殺せませんでした。少女は町から逃がされました。

 生きていくため、少女は黒い霧の目立たない夜に慈悲を乞い、人々のかすかな慈悲にすがりながら、町々を放浪しました。そしてついに、もっとも慈悲ぶかき人々の住む町にたどり着きました。もっとも慈悲ぶかき人々は少女の境遇を憐れに思い、寝泊まりの出来る牛小屋と食べ物を与えました。そのやさしさに、少女の周りを常に取り巻くようになっていた黒い霧は、すっかり消えてなくなりました。

 あるとき、町が魔物に襲われました。少女が町を守りたいと強く願うと、ふたたび少女の体から溢れた黒い霧が、町中に広がりました。なんということだ、少女は魔物の使いだったのだ。もっとも慈悲ぶかき人々は泣き叫びました。けれどその黒い霧は、魔物だけを殺しました。少女は、見事に町を守ったのです。

 人々は少女を称賛しながらも、黒い霧に怖れをいだいていました。けれどそれからも少女は魔物を退治し続けました。人々はすっかり少女を信用して、慕いました。嫁にもらいたいという人まで現れました。少女はもう、牛小屋の住人ではありませんでした。

 いっぽう、少女の禍々しい能力の噂を聞きつけ、おそれる人々もたくさん出てきました。彼らは少女をとらえるべく、もっとも慈悲ぶかき人々の町に、兵を差し向けました。もっとも慈悲ぶかき人々は、たくさん殺されました。

 少女は町を守りたいと願いましたが、直前に起こった魔物の襲撃で力を使い果たしていました。少女はわずかな人々に連れられ、町から逃がされました。

 少女の名前はリリー・ロドといいます。



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